鏡の森

地獄を生き延びたワケありエンジニアによる手記

今の時間が満ち足りたものであるほど、失ったものの大きさに泣く

 

社会に出て人と働き、人の優しさに触れると脳みそが拡張されるような思いがする。

 

景色がクリアに見えて、眼前に360度の視野がひろがる。

 

日常がアップデートされていくのを感じる。

と同時に、もしかしたらこんな風景が高校生の頃に自分にもあったのかもしれないと思う。

 

なにも見えなかった。混乱していて、頭がおかしくなっていた。

 

抗うつ剤抗精神病薬は、もしかしたら健常だった人間を破壊するには十分すぎる強さをもっていた。

 

10年のうちに、俺の脳みそは破壊されていったのだろうな。

 

喋れなくなっていった。考えられなくなっていった。周りからどう見られているのか、自分というものがわからなくなっていった。

 

家にこもりきりの生活、完全に障害者となっていた。

 

父親以外は誰も知らない10年間。

 

3日おきの動機や目眩と、たまに涙があふれる。

 

死のうと思ったが死ねなかった。怖かった。

 

今思うとあの10年間はなんだったんだろうか。

医者の誤診、その一言で片付けていい問題なのだろうか。

 

あるべき高校生活、あるべき大学生活や青春は、精神科の閉鎖病棟のベッドに横たわっているうちに過ぎていった。

 

勉強も友情も恋愛もなにもかも、いつのまにか遠い存在となってしまっていた。

 

そして10年、空っぽの状態ですこしずつ正気になっていった。

 

失った10年間を数える。

 

未だにどう受け止めていいのかわからない。

 

ここにはいたくない。

どこか遠くへ行きたい。

誰も知らない遠くへ。

 

時間を巻き戻すことはできない。エントロピーは増大し続ける。

 

永遠に戻らない青春を数えて、俺はこのさきも生き続けるのだろうか。

 

15歳から25歳までの10年間になにもできなかったこと。

そしてそれをどうやって人に説明すればいいのかわからないこと。

 

なにももってない自分と、そんなこともないまわりの人々。

 

どうしたって比べてしまうし、俺はまだまだ子供でいたかった。

 

生計を建てなければいけない。

まわりの同世代は結婚して子供もいる。

 

俺の10年はほんとうになんだったんだろう。